2年半共に暮らしたてるてる坊主と別れた
コイツと出会ったのは2年と半年前
一心不乱に晴天祈願をしている僕の頭上で、怪訝な表情を浮かべていた
照明の紐にぶら下がる間抜けなコイツから見下されているのを感じたが、翌日に屋外で開催するイベントの成功を願う僕には、気にしている余裕なんてなかった
僕「晴れろおぉぉー晴れろおぉぉー…ッ!!!」
そのイベントは僕と数人の仲間たちが企画したものであり、当時進めていたプロジェクトを成功へと導く大きな要因の一つだった
時刻は21:00
天気予報を確認するが、あまりよろしくない
僕「さすがだな。日照率ワースト1の名は伊達じゃないぜ…何としてでも晴れさせてやる」
てるてる「…そんなに晴れてほしいのか?」
僕「もちろん。雨だと中止だし、曇りもやだ。晴れがいい」
てるてる「そうか。まぁでも、天候を変えることなんて誰にもできないけどな」
僕「それでも、今はそれしかできることがないんだよ」
てるてる「そんな無駄なことやっても意味ないだろ。やることないんだったら今日はもう早く寝れば?」
僕「夢がないこと言うなよ。もしかしたら良くなるかもしれないだろ」
てるてる「いや、意味ないね。たとえ晴れたとしてもそれはお前のおかげじゃないからな。ドヤ顔で『俺のおかげで晴れた』とか言うなよ。そういう奴のせいでわけのわからない都市伝説が誕生するんだからな」
僕「やめろよ。そんなに釘を刺されたらやる意味なくなるだろ」
てるてる「だから意味ないって言ってるだろ!」
翌日の天気は晴れのち曇
割合的には晴れが9、曇りが1だった
雨もほんの少しだけ降ったが、すぐに止んだ
特にコイツに対して思い入れも何もなかったが、それからは不思議と一緒にいた
お互い特に意識することもなく、半年に一回ほど「あ、お前まだいたのか」と言い合う
それだけの関係だった
そんな僕らの関係に変化が起きた
それは、一人断捨離大会を開催した時のことだった
今までも断捨離大会を開催することはあったが、コイツは当たり前のように最終選考まで生き残り、合格を勝ち取っていた
やっかいなことに、大会当日だけ、他の選手とは比較にならないほどの潜在能力を発揮するのだ
ゲームセンターで出会ったぬいぐるみ達が緊張しているなか、コイツは今回も悠々と進んでくる
まだ選考中にもかかわらず、他の選手たちは、就活面接で隣に座った奴が世界一周した経験を話し始めたかの如く、落胆の表情を浮かべている
どうせコイツの事だからまた残るのだろうと思っていたが、事態は急変した
袋の中へ落ちていくアイツを、僕は見た
普段と変わらない間抜けな表情をしていた
ポフッ
奈落の底に横たわるアイツの表情を見たとき、僕はやっと気付いた
アイツはずっと前から、覚悟を決めていたんだ
悠々と選考を勝ち進んでいたんじゃない
落選を受け入れていたんだ
翌日、友人と近所のスーパーマーケットへ買い物に行った
関東からやってきた僕に対して、雪国の友人が昨年と同様のセリフを言う
友人「今年の雪は少ない。今まではもっと凄かった」
僕「そうなのか。でも心配するな。来年からはめちゃくちゃ降るから。今年の3倍は降るから」
友人「へえ、それはそれで困るけどな。日照り乞いでもするか」
僕「そんな無駄なことやっても意味ないだろ。受け入れるしかないよ」
僕は雑談をしながら、カルーアと牛乳をカゴへ入れる
友人「あれ?お前、甘いの好きだっけ?」
僕「いや、でも今日は一人カルーア大会なんだ」
友人「何だコイツ…」
鈴の音が遠くまで響きそうな澄んだ空のなか、怪訝な表情が浮かんだ